竹内一平
私は、桶狭間病院藤田こころケアセンターで薬剤師として勤務しながら、当研究室で社会人大学院生として博士号を取得しました。私の博士論文のテーマは、「治療抵抗性統合失調症患者のリカバリーを目指したクロザピンの使用における副作用対策に関する研究」です。クロザピン(Clozapine;CLZ)は治療抵抗性統合失調症の治療薬として、その高い有効性が期待されていますが、我が国ではCLZの使用患者数は市販後7年経過した現在でも4,427例(2016年5月末時点)と少数に留まっており、治療抵抗性統合失調症の患者数が2~5万人と推定されることから考えると、CLZの使用は十分でないことが指摘されています。この理由の一つに、CLZは治療効果に優れているにもかかわらず、無顆粒球症という重篤な副作用が存在するため、その使用が躊躇されていることが挙げられます。しかしながら、多くの問題点を抱える我が国の精神科治療において治療抵抗性統合失調症の世界的な標準療法であるCLZ治療の普及が強く望まれています。そこで、博士論文では、CLZの副作用の問題点を把握し、その副作用対策について検討を行うことにより、治療抵抗性統合失調症患者のリカバリーを目指した治療支援の構築を目的としました。CLZ服用患者への服薬支援のための意識調査では、CLZ治療で特に問題視される副作用は無顆粒球症と唾液分泌亢進であることを明らかにし、この結果よりCLZ誘発性顆粒球減少症に対する白血球減少症治療薬アデニンの有効性の検討、CLZ誘発性唾液分泌亢進に対する抗コリン薬の有効性の検討でアデニンの併用使用の有効性や唾液分泌亢進に対する対策の普及の必要性を示唆しました。本結果より医療従事者がCLZの副作用に対して適切に対処することやその特徴的な副作用の実態を認識することは、我が国の精神科治療において、CLZ治療が浸透するための有益な情報となり、ひいては我が国の精神科治療の発展に大いに貢献できるものと考えています。
本博士論文の内容は医療薬学会から高い評価を受け、第27回医療薬学会年会Postdoctoral Awardを受賞しました。
今後は、精神科医療において、薬剤師の視点による新たな治療エビデンスを数多く構築していきたいと考えております。
最後になりましたが、このような貴重な経験をさせていただいた病院薬学研究室の 亀井浩行教授、半谷眞七子准教授、福井愛子助教及び研究室の皆様に心より感謝申し上げます。